研究成果情報(遠洋漁業関係)

南極海における沿岸ポリニアの推移追跡

[要約]
南極海のポリニア(開氷域)は、冬から早春にかけてのオキアミやその捕食者の生存活動にとり、海氷域におけるオアシスの役割をもつと考えられる。そこでリモートセンシング海氷データをもちいて、ポリニアの時空間的推移を追跡し、発生場所・時期・形状について明らかにした。
遠洋水産研究所・海洋・南大洋部・南大洋生物資源研究室
[連絡先] 0543-36-6000
[部会名]平成9年度遠洋漁業関係試験研究推進会議
[専 門] 海洋構造
[対 象] 他の甲殻類
[分 類] 研究
[背景・ねらい]
南極海の海氷域に発生するポリニア(polynyas; 海氷の一部が開いた開氷域)は、海水面を直接に大気にさらすために、大気と海洋との相互作用を加速すると考えられている。とりわけ冬季・春季に沿岸域に形成されるポリニアでは、植物プランクトンの発生時期が周辺の海氷域より著しく早まると推測できることから、ナンキョクオキアミなど動物プランクトンの高密度分布およびその捕食者が集まってくると考えられる。そこで本研究では、マイクロ波放射計を搭載した人工衛星による17年間(1979~1995)の観測データを画像解析し、南極海全体のポリニアを探索、沿岸系ポリニアの発生場所・時期・形状について精細な時空間的推移を追跡した。

[成果の内容・特徴]
1 南極海全体の海氷域において、沿岸系ポリニアは、主として南極半島海域、ロス海、プリッツ湾およびウエッデル海で認められた。これらの内、南極半島海域とロス海におけるポリニアの推移を精細に追跡した結果、ポリニアの発生・消滅過程が年によっ大きく変化することが分かった。
2 たとえば南極半島海域においては、典型的なポリニヤが、海氷の張り出しが大きい年である1987、1991年の厳冬期に、半島北西側水域で発生した。その他の年では顕著なポリニアは認められなかった。他方、ロス海奥部のポリニアはロス棚氷域沿いに毎年発生しており、その規模は12月中旬で最長幅が約500kmを示した。通常は12月下旬になると外洋域とつながってポリニアは消滅するが、1982、 1988および1994年は1月中旬まで開かなかった。
3 南極半島海域およびロス海におけるポリニア発生は、南極周極環流の深層暖水系が海氷域へ貫入・湧昇する現象に起因していると考えられた。

[成果の活用面・留意点]
1 人工衛星によるポリニア追跡は、基地や船舶からの観測ではデータ収集が困難な南極海氷域における環境モニタリング方法として有効である。
2 海氷密接度が低いポリニア水域は太陽光の透過が容易で、かつ深層暖水の湧昇で周辺海氷域より暖い水域となり、早い時期から基礎生産が活発化する。そのためオキアミを中心とする地域生態系の動態を知るうえでの重要な環境条件として利用できる。
3 1997年CCAMLR科学者作業部会において、南極海の地域生態系に果たす沿岸系ポリニアの役割は重要であると評価された。

[具体的デ-タ]
・南極半島北側海域におけるポリピア(図1)
・ロス海奥部におけるポリピア(図2)

[その他]
研究課題名:南大洋スケールにおける海洋環境構造の統合解析
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(継2~7~(10))
研究担当者:永延幹男
発表論文等:
・Pursuit of Polynyas in the Antarctic Peninsula Area, CCAMLR, WG-EMM-97/69, 1997.
・マイクロ波リモートセンシングによる南極半島海域のポリニア追跡、1997年度日本海洋学会
春季大会口頭発表、1997年4月。
・南極ロス海におけるポリニアの追跡、1998年度日本海洋学会春季大会口頭発表、1998年4月。

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