研究成果情報(遠洋漁業関係)

アリューシャン海盆スケトウダラの成長に伴う生残・回遊

[要約]
アリューシャン海盆産卵群に由来するスケトウダラ仔稚魚の生残には、海盆から大陸棚への卵仔魚の移送機構が大きく影響していることが示された。また、耳石年輪パターンの解析結果から、海盆系群は東部大陸棚南部海域で若齢期を過して回遊してくることが示され、海盆資源が大陸棚南部の未成魚資源と強い関係を持つものと考えられた。
遠洋水産研究所・北洋資源部・北洋底魚研究室
[連絡先] TEL:0543-36-6000
[部会名]平成9年度遠洋漁業関係試験研究推進会議
[専 門] 資源生態
[対 象] スケトウダラ
[分 類] 研 究
[背景・ねらい]
我が国北洋漁業が対象としてきたベーリング公海のスケトウダラ資源は、アリューシャン海盆に広く分布しているが、海盆海域のスケトウダラは5歳以上の成魚だけで構成されており、未成魚あるいは幼魚は出現しない。海盆スケトウダラは未成魚期まで周辺の大陸棚海域で過し、成熟にともなって海盆に成魚資源として加入してくるものと考えられているが、この間どのような生残・加入機構を経て、移動回遊しながら海盆に現れてくるのか明確にはなっておらず、ベーリング海のスケトウダラ資源を管理する際の大きな問題点として残されている。

[成果の内容・特徴]
1 ベーリング海のスケトウダラは日本周辺海域の群とは遺伝的に異なる群であることが示され、またベーリング海の東部大陸棚と西部大陸棚で遺伝的に異なった群が存在する可能性が示唆されているが、海盆系群の独立性は明らかではない。
2 海盆産卵群に由来する仔魚(20mm以下)は海盆海域では生残できないが、一部は東部大陸棚に移送され、ここでその初期生活史を過ごすことがわかった。したがって、海盆への仔魚の移送過程が初期生残に影響していることが示された。
3 初年年輪パターンに大陸棚南北で地理的差異が認められ、年輪パターンを解析することでその魚がどの海域で1歳魚として生活していたかを判別することが可能となった。年輪パターンの解析から、海盆系群は東部大陸棚南部海域で若齢期を過しているものと考えられ、海盆資源が大陸棚南部の未成魚資源と強い関係を持つものと考えられた。

[成果の活用面・留意点]
ベーリング公海スケトウダラ資源保存管理条約のもとで行われている海盆スケトウダラの資源管理において、検証され活用される。東部大陸棚上での幼魚期および未成魚期の生残機構についての知見は限られており、また年変動に関する情報も少ないことに留意する必要がある。
[具体的デ-タ-]
    産卵群調査結果から海盆群は2-3月に、大陸棚群は4月中旬以後産卵すると考えられ る。産卵から孵化までに25日を要することから、4月25日以前に孵化した仔魚は海盆産 卵群由来、4月25日以後に孵化した仔魚は大陸棚産卵群由来と推定された(1993年開洋 丸調査報告書)。(図1)
    各定点で採集された成魚の初年年輪パターンから、これらが1歳時に大陸棚の北部あ るいは南部のどちらに分布していたかを推定した。海盆スケトウダラはほとんどが1歳時 には大陸棚南部海域に分布していたものと推定された(1997年北洋底魚資源調査研究報告集)。 (図2)各採集定点におけるスケトウダラ成魚初年年輪パタ-ンの判別結果

[その他]
研究課題名:遠洋底魚魚類の資源構造の解明
予算区分:経常
研究期間:平成6~10年
研究担当者名:西村 明、柳本 卓
発表論文等:
・Growth of age 0 and age 1 walleye pollock in the different domains of the eastern
Bering Sea. 第29回北洋研究シンポジウム、1998
・ベーリング海におけるスケトウダラ成魚耳石にみられる初年年輪径の地理的差異、
1997年北洋底魚資源調査研究報告集、1998
・PCR-RFLP分析によるスケトウダラのmtDNAの地理的変異性について、平成9年度
日本水産学春季大会講演要旨集、1997
・平成7年度開洋丸第一次調査航海報告書(水産庁)、1997
・平成5年度開洋丸第一次調査航海報告書(水産庁)、1995

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