研究成果情報(遠洋漁業関係)

ナンキョクオキアミ消化管内共生生物の発見

[要約]
ナンキョクオキアミの消化管内から原生生物を発見した。すべてのオキアミに存在していたこと、消化管内で増殖している形跡があることから、それらは共生しているものと思われる。これら共生性の原生生物はオキアミの食性に深く関与しているものと思われる。
遠洋水産研究所 海洋南大洋部南大洋生物資源研究室
[連絡先]0543-36-6069
[部会名]水産業試験研究会議
[専門]資源生態
[対象]他の甲殻類 [分類]研


[背景・ねらい]
生物の世界では長い進化の過程で異なる種の生物同士が緊密な相利関係を築きあげてゆくことが良く知られている。例えば動物の消化管内に共生する繊毛虫類を例にとると、彼等は宿主の消化管内容物を栄養源として生活するかたわら、宿主自身では消化不可能な物質を分解し、利用できる形に分解する事で、宿主に貢献する。この様な消化管内共生繊毛虫は陸上生態系での繁栄に成功したシロアリの消化管などで良く知られている。しかし、海産甲殻類において同様の報告例は無い。 そこでわれわれは、海産甲殻類においても同様の消化管内共生関係があるに違いないと考え、単一種として海産生物中最も大きな資源量を誇るといわれるナンキョクオキアミの消化管内について研究を行った。

[成果の内容・特徴]
1 1994/95南極海調査航海において生きたナンキョクオキアミの消化管内を光学顕微鏡を用いて観察したところ、大きさ15-50mmほどのおびただしい数の原生生物が活発に運動しているのが確認された(写真)。形態から判別して少なくとも2~3種類は存在するものと思われた。
2 さらに、乾燥割断法という新しいサンプル処理法を用いて走査型電子顕微鏡をにより詳しい観察を行ったところ、性別を問わず解剖したすべてのオキアミに原生生物は存在し、腸内環境でこれらの原生生物が再生産(増殖)を行っていることが明らかとなった。
3 今回確認された原生生物は、(1)解剖したすべてのナンキョクオキアミから確認された、(2)消化管内環境に適応し再生産を行っている、等の事実からナンキョクオキアミ消化管内に共生するものと考えられる。

[成果の活用面・留意点]
近年、緊急の課題とされる地球環境保全のためには、生態系を正しく把握する必要がある。生態系は共生あるいは寄生といった生物相互の密接な関係の上に成り立っており、それらを抜きに議論はできない。その中でも南極生態系は他の海域と比べ、ナンキョクオキアミを鍵種とした比較的単純な生態系から成り立っており、海洋生態系研究の1つのモデルとして適した海域といえる。 今回発見された共生性原生生物はおそらくオキアミの食性に深く関与しているものと推察される。この共生関係を解明することにより、南極海における低次生産から高次捕食者への食物エネルギ-の流れを把握することが可能となる。


[その他]
研究課題名:南極オキアミの生活史の研究
予算区分 :経常
研究期間 :延54~7~(10)
発表論文等:「Ciliates reproducing in the gut of Antarctic krill」 Polar Biology、1997 (印刷中)

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