研究成果情報(遠洋漁業関係)

アーカイバルタグによるクロマグロの渡洋回遊の実態

[要約]
 
アーカイバルタグを装着したクロマグロが、米国サンディエゴ沖で再捕された。装着され た標識に記録されたデータから放流後、約1年間日本南岸を徐々に北上、東進した後、約2 ヶ月で太平洋を横断し、米国西岸沖に到達したことが明らかとなった。
遠洋水産研究所・近海かつお・まぐろ資源部・まぐろ研究室
[連絡先] 0543-36-6034
[部会名] 遠洋漁業関係試験研究推進会議
[専 門] 資源生態
[対 象] まぐろ
[分 類] 研究
 
[背景・ねらい]
太平洋に広く分布するクロマグロは、台湾から日本周辺にかけての西部太平洋、及び米国 からメキシコの西岸沖合が主な漁場となっている。従来の標識放流調査からも、本種は両 海域を移動していることが確認されていた。しかし、従来の標識では、いつ、どのように、 どこを通っていくのかは分からなかった。そこで、ICメモリーを内蔵したアーカイバル タグを用いてクロマグロの渡洋回遊の時期と経路を明らかにしようとした。

[成果の内容・特徴]
・アーカイバルタグは、本体の長さ10cm、空中重量55gの標識で(図1)、これを腹腔内に外科的手術により装着(図2)、放流することにより、再捕までの遊泳中の環境水温、腹腔内温度、水深、及び位置を連続的に計測、記録することが可能である。
・1995年から1998年までに、毎年冬季に対馬周辺海域で当歳魚を中心に229個体を放流した。1999年1月1日現在42個体が再捕され(再捕率18.3%)、うち5ヶ月以上の長期再捕は17個体である。
・1996年11月に放流した標識装着魚のうち、1個体が約2年後に米国サンディエゴ沖で再捕された。それから回収された標識に記録されたデータから、この個体は、放流後、東シナ海へ南下・滞在し、1997年5月初めに九州南端を通過し、四国、本州の南岸に沿って、5月中旬には房総沖に達したことが解明された。その後、徐々に三陸沖から道東沖合を北東方向に移動していたが、11月中旬から一気に太平洋を横断し、1998年1月中旬米国西岸沖に到達した。その間の平均移動速度は1日100km以上に達した。その後、8月に再捕されるまで米国西岸で南北移動を繰り返していた(図3)
・当歳魚は、冬季には夜間、表層50m以浅を中心に鉛直行動を行い、日中は50~100m層で遊泳していることが明らかとなった。初夏になると夜間はごく表層に漂い、日中盛んに表層から100m深までの鉛直行動をしていることが示された。また、冬季には、腹腔内温度が周辺水温より2℃ほど高く、夏季ではそれ以上に高く腹腔内温度を保持していた(図4)

[成果の活用面・留意点]
本手法は、国内においてブリ、トラフグ、ヒラメなど他魚種でも試みられている。クロマグロでは尾叉長約45cmを越える個体を対象としているが、より小型な若齢魚、あるいは小型魚種に適用するには、標識の小型化が必須である。

[その他]
研究課題名:新技術を用いたクロマグロ・カツオの回遊行動と環境要因の解明
予算区分 :経常、漁業調査
研究期間 :平成10年度(平成10~14年度)
研究担当者:山田陽巳、高橋未緒、伊藤智幸、辻祥子
発表論文等: 発表論文等:クロマグロのアーカイバルタグによる太平洋横断経路の実測、 平成11年度日本水産学会春季大会講演要旨集、(印刷中)、1999。

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