外洋域に生息する高次捕食者の胃内容物からは、しばしばハダカイワシ科魚類が出現する。しかし、多くの場合胃内容物は消化の影響を受けており、魚体そのものの形態から種同定することは困難な場合が多い。耳石は胃内容物中で消化段階の最後まで比較的形態を保ちながら残っている場合が多く、胃内容物中に含まれる餌生物の種同定にはきわめて有効である。さらに、耳石長を測定することで、捕食されていた餌の体長や体重を推定できる場合もあり、高次捕食者の食性に関する定性的分析だけでなく、定量的分析も可能になる。

 ハダカイワシ科魚類は北極海を除く全世界の外洋の中・深層に適応分布しており、外洋生態系の中で最も優占する魚類のひとつである。この魚たちの多くは昼間200m以深の中層に生息し、夜間に表層に浮上し、外洋食物網の中で第3次生産者の位置にある。このことから、外洋性大型浮魚類、陸棚性底魚類、イカ類、イルカ、オットセイ、トド等の海産哺乳類、海鳥類等の高次生産者の餌生物としての役割が注目されている。ここでは高次捕食者の胃内容物解析の際の資料として、西部北太平洋海域に出現するハダカイワシ科魚類主要36種の耳石(偏平石)による種同定の方法と、胃内容物分析を行う上で必要になる技術について解説する。


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